コンサートシリーズ

《ツァイトプンクト》

第2回[ラウムコンプ]

 

竹内 あすか(フルート奏者・ツァイトプンクト オオサカ 主宰)

《ツァイトプンクト オオサカ》を主宰されてからちょうど2年、今回が第2回の企画になります。

前回の公演を振り返っていかがですか?今回はどのようなプロセスを経て企画が出来上がりましたか?

 

― 2015年の末、まだ留学先のドイツにいた頃に帰国後 関西で《ツァイトプンクト オオサカ》を立ち上げると決意してから、実現させるまでの道のりは険しいものでした。「現代音楽」と聞くと難解なイメージが先行している世間の実情に少しでも風穴を開けて「もっと面白くて格好いい」ということを伝えたい、という願いこそ強かったですが、どう伝えるべきなのか、悩みが尽きませんでした。チームで話し合いを重ねた結果、淀屋橋の芝川ビルで開催した第1回ではレクチャーや作曲家ご本人をお招きしたトークを交えて、現代音楽を〈とことん噛み砕いて〉伝える企画が出来上がりました。お客様にも好評で、何より会場の皆さんの表情に、よくある「座ってるだけ」感がなく生き生きとしていたのが印象的でした。「現代音楽にとどまらず、そもそも音楽について改めて深く考えるきっかけになった」というご感想もいただき嬉しかったです。

 企画の内容そのものは充実していましたが、一方で〈分かりやすさ〉〈親しみやすさ〉が前衛芸術を前にみせるある種の脆弱性も感じてしまいました。前衛作品に何故分かりにくいものが多いかというと、それまで見聞きしたことのない全く新しいアイディアがそこにあるからで、私たちはしばしば「分からない」とか「くだらない」と言ってシャットダウンしてしまいがちです。それを回避するために言葉を尽くして説明をしてしまうと、今度は作品の持つメッセージやスタイルが崩れてしまうこともあります。歴史的に見て大阪は「よそから来たもの」に対して開かれた土地だったと思いますが、だからこそ、アーティストの創作活動を応援して新しい作品を受け入れる懐の深さを持っていてほしいと願っています。

 近年アートというと日本各地の美術館の人気が出ていますが、オペラも現代音楽も同じアートです。美術館へ足を運ぶ人々に、新しい音楽の魅力も届けたいと思っています。今回の[RAUM KOMP]ではギャラリーの空間に画家の作品が並び、その絵画に着想を得た作曲家が空間全体をプロデュースします。単に絵画と音楽のコラボレーションにとどまらず、そこに生まれる全く新しい空間の芸術に私も大きな期待を抱いています。今回もアーティストによるトークセッションを予定していますが、「学ぶ」のではなく「感じる」方向からの入り口を作っていきます。

 

今回のコンセプトには「RAUMKOMP うごく空間、そこにある音」を掲げられました。「RAUM KOMP」とはどのようなもので、竹内さんはどこで知りましたか?

 

― タイトルの由来は現代音楽の様式”Raumkomposition”です。”Raum”(ラウム)はドイツ語で「部屋」や「空間」、”Komposition”(コンポズィツィオーン) は「作曲」の意味ですから、直訳では「空間作曲」と聞いたことのない言葉になってしまいますが、「空間構築」と言い換えることもできます。第二次世界大戦後のヨーロッパでは芸術の各分野を横断する新しいアートシーンが生まれており、その中で自然発生的に生まれたのがこの「空間を作曲する」という概念です。クリエイターは作曲家であったり美術家であったり様々です。更に電子音楽やプロジェクションマッピングなどのテクノロジーを用いた作品も増え、各領域はますます密に、隔たりのないものへと変容しています。

 私が実際に体験したのはドイツ留学中、現代アート美術館ZKMで2015年に開催されていた池田亮司の展示が最初だったと思います。観客である自分がその空間にいることで作品を完成させているような感覚に陥り衝撃を受けました。

 

なぜ今回の企画の会場に「海岸通ギャラリー・CASO」を選ばれたのでしょうか。

 

― CASOは民間最大規模を誇るギャラリーで、天井が高く音響はまるで教会のようです。私はドイツ留学中より、日本ではコンサートホール以外の場でクラシック音楽を聴く機会が少ないことを残念に思っていました。一昨年自身の無伴奏フルートリサイタルのために会場を探したところ、大阪にこのような開放的なギャラリーがあることを知り、前例はなかったのですが思い切って開催しました。無機質な外観と真っ白な大きな壁に豊かな音響。その空間に助けられた演奏会となりました。

 そして今回の[RAUM KOMP]もこの空間の中で実現させたい!と真っ先に思いました。人気のある大きな会場で費用面でのハードルがありましたが、[アーツサポート関西]からの助成により当初のアイディアが叶いました。

 

今回の企画に携わる5名のアーティストとの出会いについてお聞かせください。

 

― 作曲家の東俊介さんとは留学先のカールスルーエ音楽大学で出会い、帰国時期が近かったこともあり《ツァイトプンクト オオサカ》の立ち上げから力を貸してもらいました。第1回公演でも新作をお願いし、コンセプトに合った個性豊かな作品を書いてくださいました。国内外で活躍されている小出稚子さんには前回 現代音楽講座の講師としてお出でいただき、今回は初めて新作を委嘱します。作曲家のお二人はソリが合うらしく、お話を聞いていても感覚が似ている部分があると確かに感じるのですが、作風は全く違うので、どのような作品が仕上がるのか楽しみです。

 画家の薬師川千晴さんはもともと友人の友人で、近いところで活動していながら実は今回初めてご一緒させていただきます。彼女の絵を見た瞬間に、これだと思うほど強く訴えるものがありました。しかし実際にお会いするととても柔らかい雰囲気の女性で、あの迫力ある絵を描いている人なのかと疑うほどでしたが、関わるうちに芯の強い部分が見えてきて納得しています。今回の公演に向けて新しい作品も制作してくださっていて、とても楽しみです。薬師川さんと作曲家のお2人はそれぞれコンタクトを取り、作品の制作にあたってインスピレーションを得てもらっています。

 打楽器奏者の畑中明香さんは関西で活躍する現代音楽グループ「アンサンブル九条山」にも所属され広く信頼を集めておられます。そのお弟子さんである大石橋さんは現在も留学中のため一時帰国に合わせての出演です。全く偶然ですが、お2人とも私と同じカールスルーエ音楽大学で学ばれたとのことで、不思議な縁を感じています。

 

今回の企画はどのような点にこだわっていますか?見どころ、聴きどころもご紹介ください!

 

―[RAUM KOMP]は、時間芸術である音楽が発想の起点です。薬師川千晴さんの絵画を取り巻く特定の空間にいながらも音楽に合わせて空間が動くような、時間の流れを強く感じられるコンサートとなるでしょう。また、奏者が歩きながら演奏して鑑賞者の真横を通ったり、鑑賞者の皆様の動きも作品の一部となるかもしれません。要は、普通のコンサートではありません。(笑) 作曲家お2人のそれぞれの作品が、薬師川さんの絵画とどのように化学反応を起こすのか。様々な打楽器の音色がCASOでどう響くのか。そのときお客様一人ひとりがどのような表情をしているのか、私もとても楽しみです。